日本における特許出願の数は2005年の427,078件をピークにほぼ毎年減少を続け、2020年には288,472件まで落ち込んだ。2005年当時には日本の出願件数の半分程度であった米国への特許出願数は、この間も順調に増え続け、今では逆に日本の倍程度の597,000件程度となっている。今や米国に次ぐ2番めの経済大国となった中国では、他の国とは桁違いの特許出願の伸びを示し、毎年150万件程度の特許出願がある。むかし、私がまだ元気だったころ、各国のGDPと特許出願の数との関係を調べたことがあったが、両者の間にはみごとな相関関係があった。つまりある国の年間の特許出願数は、GDPの動きとみごとに一致していたのである。それを考えると、現在の日本はやはり元気がないのではないかと考える。
とはいっても、これは私が弁理士であるために、特許出願が少ないと私の元気もなくなるという、明らかな因果関係に影響された悲観的な考えなのかもしれない。それに対して、イノベーション・システムというキーワードを使用して客観的な情報に基づいて日本には元気があるのかないのか、以前と比較してより元気なのか、より元気がないのかを明らかにしようとしたのがこの本(
変貌する日本のイノベーション・システム)である。
イノベーション・システム(NIS)とは、「一国のイノベーション活動にかかわる、民間セクター、アカデミック・セクター、そして公的セクターの様々な組織や制度、それらの相互作用からなるネットワーク」のことをいう。そしてこの本では、著者は、「日本のイノベーションシステムが“ジャパン・アズ・ナンバーワン”(Vogel. 1979)と呼ばれた1970年代末から"失われた20年”を超え、現在(2018年)までの間にどのような方向に変化したのか(しなかったのか)を点検することによって、"日本的経営”や“日本の強みと弱み」の現状などを明らかにする」こと、及び「その結果から、今後、必要とされるイノベーション政策やシステム改革に対するインプリケーションを得る」ことを目的とすると述べている。
そのために第1章では日本のイノベーション・システムの今後の役割に関する問題提起をし、第2章では日本のイノベーションの諸相をめぐる長期的変化と題して、1980年代から現在までを対象として、主としてマクロのパフォーマンスの視点、産業構造の視点、イノベーションの総合指標とインプット・アウトプット指標という3つの視点から日本の長期的変化を概観する。これを受けて、続く第3章及び第4章では日本の企業における研究開発と雇用・経営の分析、ベンチャー企業の役割とその変化に関する検討が加えられ、第5章及び第6章では科学技術人材の供給と基礎研究のスピルオーバーという視点から、大学の役割と現在の問題点、さらに大学から産業界への人材及び知識の移転について検討がされ、第7章から第9章では、公的研究期間、政府調達、そしてイノベーションを生み出すための制度が検討されている。最後の第10章には、変貌するイノベーション・システムと日本の将来と題して、現在の日本のイノベーションシステムの課題と今後についての考察が述べられている。