古典・原典に帰ることにした。
一外交官の見た明治維新〈上〉
アーネスト サトウ
一外交官の見た明治維新 下 岩波文庫 青 425-2
アーネスト サトウ
明治維新前後の日本の情勢をイギリス人通訳の目から見た記録である。もちろん有名な本であるから名前だけは知っていたし、以前朝日新聞に連載されていたときにも目を通してはいたが、原典を読むのはこれがはじめてである。もっともこれは翻訳だから本当の原典というわけではないが、ここでは原典の翻訳も原典「みたいなもの」として許していただくことにする。
「サトウ」という名前は日本の「サトウ」という名前と同じなので、なんとなく日系の人かと思っていたがそうではなく、れっきとしたイギリスの名前「Satow」だそうである。原典に当たっていないとそうした簡単なことも分からない。
明治維新の前後という時代が今からまだ140年しか経っていないというのが不思議なくらい、当時の日本と今の日本とは異なっている。今、イラク戦争でイスラム教徒が捕虜の首を切断する映像を流すので、イスラム教徒は野蛮だ、と一般に思われているようだが、明治維新の頃の日本人もそれとあまり変わらなかった。切腹という儀式もあったが、切腹でなく単なる斬首の刑もあったわけで、しかもそれを多数の人間が見届ける、という風習があった点でも今のイラクとそれほど変わらない。
以前、朝日新聞で読んだ時には、日本人がずいぶんと文化的な民族だという目で書かれていたように思うのだけれど、岩波文庫で読んでみると、それはあくまでイギリス民族と比較して劣等な民族にしては、という前提があったということがよく分かる。特に武力を背景に、押せばへこむ日本人の役人に対して高飛車な態度に出ることで、明治維新以後において日本で有利な立場を築いたイギリス人の抜け目なさが印象的だ。
それとは別に、著者のサトウが日本を旅した記録も書かれているので、当時の各地の風俗の片鱗が見えて面白い。特に私が住んでいる芦屋から西宮、大阪、京都、東海道を江戸まで上る途中の駿府、蒲原、富士、箱根などの記事を見ていると「なるほど」と思うことも多い。田舎だけではなく、大名屋敷の中だとか、城の中だとかの記載もあり、それだけでも結構面白い読み物であることを再確認した。
岩波文庫で上下の二巻本である。忙しくても通勤の電車の中で無理なく読める。昔の日本人がどうだったか、今とどれほど違っていたかを確認する意味で読むことをお勧めする。