平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷
上告人は、自己の特許権を侵害しているとして、差止めを求めて被上告人を訴えた。第1審で被上告人は特許権に無効理由があると主張し、それが認められた。上告人は、第1審判決後、訂正審判を請求するとともに控訴した。
控訴審の審理中に、訂正審判については何回か出し直しされ、控訴審の判決(控訴人敗訴)後に訂正を認める審決が出され、確定した。ただしこの間、控訴審の口頭弁論終結までに、上告人は控訴審で訂正審判により訂正された後の特許権に基づく侵害の主張立証をしなかった。
上告人は、訂正審決の確定を受け、控訴審判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして,
民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある(
民訴法325条2項)として上告した。
上告審では、次のような判断がされた。(傍線は判決による。)
そうすると,上告人は,第1審においても,被上告人らの無効主張に対して 対抗主張を提出することができたのであり,上記特許法104条の3の規定の趣旨
に照らすと,少なくとも第1審判決によって上記無効主張が採用された後の原審の 審理においては,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とするものを含め て早期に対抗主張を提出すべきであったと解される。そして,本件訂正審決の内容 や上告人が1年以上に及ぶ原審の審理期間中に2度にわたって訂正審判請求とその取下げを繰り返したことにかんがみると,上告人が本件訂正審判請求に係る対抗主張を原審の口頭弁論終結前に提出しなかったことを正当化する理由は何ら見いだすことができない。したがって,上告人が本件訂正審決が確定したことを理由に原審の判断を争うことは,原審の審理中にそれも早期に提出すべきであった対抗主張を原判決言渡し後に提出するに等しく,上告人と被上告人らとの間の本件特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものといわざるを得ず,上記特許法104条の3の規定の趣旨に照らしてこれを許すことはできない。
紛争を早期に解決することを主目的とすると、訂正の内容にもよるが、侵害裁判で被告が無効主張を行なったときには、権利者は訂正まで考慮した形で対抗主張をする必要があるということだろう。今まで、被告側で無効審判を請求すべきか否かについての議論は随分されてきたが、権利者側が訂正の内容を考慮した対抗主張を侵害裁判で行なう必要があるか否かについての議論はそれほどなかったように思う。研修ではそうしたことが話題になったことはあるが、現実にこうした判決が出ていることに鑑みると、権利者側も相手が無効主張をしてきたときには、訂正まで考慮したかたちで侵害裁判の進行を考える必要がある。